海辺の風景

海野さだゆきブログ

エレクトリックベースの世界へようこそ その6 おしまい

体のこと

演奏は体でします。当たり前ですが、演奏という点から体を見直してみましょう。なにしろ日常動作とは掛け離れたことをやりますので、なれない動きのせいで、とまどうのはもとより、無理が生じて、故障、怪我をしてしまう可能性もでてきます。

 

手、指の手入れをしましょう

まずは手を洗いましょう。楽器を汚さないためにもですし、気分も変わります。案外これをやらないひとが多いのですけど、手指をいたわる基本ですからやりましょう。

 

次は爪のお手入れです。楽器は指先で弾きます。その指先の重要な部分が爪です。ベースを弾くとき、つまりフレットを押さえるとき、弦を弾くとき、爪が適切な状態でないと弾きづらくなります。

 

どのくらい爪を短く仕上げるかは、それぞれです。私は深爪ぎりぎりくらいにしています。

 

爪切りでぱっちんとやるのはおすすめしません。ネールファイル、つまり爪とぎで長さ形をととのえましょう。私は資生堂のを愛用しています。

 

www.shiseido.co.jp

その次は指、手、腕、肩、上半身、全身のストレッチやマッサージです。特に指や手、腕、肩はみなさんが想像しているよりも多くの筋肉が連動して動きますので、ストレッチは注意してやってください。

 

その中でも指、手はあまりに複雑で、怪我や故障をしてしまうと、大変やっかいです。はっきり言って、直せる人は世界にいるかいないか、という世界です。髪の毛一本つまめるほどの器用さと、数十キロのものを握って持ち上げる負荷に耐えるパワーがあるのですけど、そんなことたったひとつの機械でやれるものではないです。あまりに日常的な動きなのでぞんざいにしがちですが、ほぼ奇跡的なものです。

 

色々なストレッチがあちこちで紹介されていますけど、私は「手の甲をさする」「指のまたをもむ」「指を一本ずつ折る」くらいでよいとおもいます。あちこち回したりひっぱたりは危険がともなうと思います。例えば「肩がこる」とかいう場合に首をいじることをすすめる人がいますが、私はおすすめしません。首はかなり難しく危険な部位です。人の動きを制する神経が通っていることを軽く見てはいけません。

 

故障や怪我をした場合はまた別です。これはもう「神業」の世界です。聞きかじりでいじり回すのは止めましょう。

 

姿勢のこと

これもまた色々なひとがいろいろな事を提唱しています。これもまた危険をともないますので、くれぐれも慎重に。

 

姿勢は日常動作の積み重ねでできあがってしまうものです。この日常動作が曲者です。現代は人にとっては不自然な、つまり怪我や故障が起りやすい日常動作を強いる時代です。

 

私たちは動物としては「小動物」です。ちょこまか動いて一日を過ごす生き物です。ねずみとかりすとかと同じと思ってください。そのねずみが長時間座ったまま、とか立ったままは想像できませんよね。しかし、私たちはいまそういう生活をしています。そうしているうちに、私たちは自然で楽な動き方をすっかり忘れてしまいました。

 

自然で楽な動き、姿勢、は「動きの中」にあります。決して「止っている」ものではありません。「これが良い姿勢」という「止った形」があるわけではありません。

 

手がかりは自分にしかありませんが、多くのヒントがあります。実際に演奏している人の動画がいまは山程見ることができます。私はまずはクラシックの演奏家たちを見て欲しいです。ピアノ、バイオリン、チェロ、フルート、トランペット、色々な楽器の演奏をみてください。動きまくっています。クラシックって直立不動でやっている、そんなイメージを持っている人は驚くでしょう。

 

あれが演奏する、ということの自然な「動き」なのです。

 

次にプロのベース奏者のライブでの映像を見てください。ライブですよ。それも立って演奏しているものに限ります。手元をよく見せようとして座って動かないように演奏している動画はまったく参考になりません。

www.youtube.com

どうですか、動いていますよね。これは見せるためのステージアクションではありません。楽器を弾くという事が色々な動きを自然に求めてくるのです。

 

一定の姿勢では弾きづらいから、体が弾きやすい動きを作るのです。私たちは座禅を組んでいるわけではありません。

 

楽器を抱えやすい動き、演奏しやすい動き、すべては動きのなかに生じます。動きやすい抱え方で抱えましょう。

 

クールダウンをしましょう

演奏をしたらクールダウンをしましょう。これもやらないひとが多いですけど、体の疲れをとることで、気持よく終わることができます。気持よく終わると学習効果はあがります。脳が「これは気持よいことなんだ」と学ぶからです。「あー、疲れた、しんど」で終わると演奏は不快なこととして残ってしまいます。不快なことはすぐに忘れます。

 

クールダウンといっても、たいしたことは必要ありません。きっと「伸び」をしたくなるからです。それが自然で安全なクールダウンになります。おすすめは「自然な伸び」と「指、手、腕、肩を手でやさしくさする」「あばら骨をさする」です。

 

楽器の選択

試着しないで洋服を買います?

楽器は直接体に触れるものです。また当たり前のことを言っていますけど、その当たり前を通り過ぎる人を多く見掛けます。楽器は「身につける」「装着する」に近いものです。服に近いものだと思います。

 

みなさんは服を試着しないで買いますか?

 

千円のTシャツであろうと、着心地が悪ければ二度と着ませんよね。さすがに千円のTシャツは試着しないでしょうけど、では5千円の服はどうです?しますよね、試着。

 

数万円、十万円を超える服を試着しないで買いますか?

 

ネット上ではあのベースはどうですか、という質問を沢山見掛けますが、答えは出ています。試着しないで高い服を買うことはしないですよね。

 

楽器の良し悪し判断は簡単です。服と同じです。肌触り、手触り、動きやすさ、そして実際抱えてみて「自分に似合うかどうか」です。これから何十分もさわり続けるのですから、触って気持がよい、抱えてみて楽、見た目が好き、鏡でみて自分に似合っている、は大切、といいますか、それしかないです。

高額なものは「お店」で選ぶ

実際、どこで買えばよいかといえば、よいお店です。だって高額なものです。信用のおけるところで買うことが安全安心です。そして「試着」をちゃんとできることも大切です。

 

結論から言えば、小さな個人商店をおすすめします。それもリペアを自分のところでやっているお店です。

 

楽器は調整が不可欠です。いわゆる「吊し」状態では「あなたにとって」弾きやすいものではありません。リペアをしているところならば、即座に「あなたにとって」弾きやすい調整をしてくれます。これは大きな利点です。そして、楽器は使っているうちに状態が変わります。そうしたらまた「あなたにとって」弾きやすく調整しなおすことが必要です。買ったところならばあなたの楽器を最初から知っていますから、よりよい調整ができます。

 

新品か中古かではなくあなたに似合う楽器を

値段のことばかり気にしているのはつまらないです。借金をしろと言っているわけではありません。よく調整された中古は値段もこなれていますから、そういう選択もあると思ってください。

 

リペアのお店ならば、中古でもちゃんと調整されていますし、楽器の状態に関して正確な情報を持っています。下手な新品よりずっとよい場合もあります。

 

楽器は出会いです。工業製品であろうとも、手作りの芸術的なものであろうとも、同じものはありません。同じメーカーの同じタイプでも意外なほど違います。「これいいな」とピンと来るまで探しましょう。

 

その楽器が非常に高価であきらめざるを得なくてもよいのです。その楽器の感触を覚えておいて「その傾向」にあるものを探せばよいのです。どうか沢山の楽器に触れてください。

 

最後に

私がベースを始めたのは中学2年生ですが、自分のベースを持ったのは大学に入ってからです。それまでの5年間どうしていたのかと言えば、フォークギターしか持っていませんでした。ライブの時に友だちからベースを借りて演奏していたのです。

 

ギターの3弦から6弦がベースと同じチューニングなのを知っていましたので、それでベースのフレーズをコピーしたり練習したりしていました。最初にコピーしたのは荒井由美ひこうき雲」、ベースは細野さん。最後のフィルが難しかったですね。なんとかできましたけど。

 

ギターも練習していましたから、コードなどの知識もつきましたから、良かったと思います。貧乏も役にたつこともあるのですね(笑)

 

今、ベースは一本持っています。もう35年間これだけです。私にとってまさに人生最後の相棒になっています。どうもベース弾くひとは本数を持たないらしいです。私もギターの人が普通に10本とか持っているのがちょっと分からなかったりします(笑)。

 

たぶん、より単純なものは、より奥が深いから、でしょうか。いつまでたっても自分のベースの全部を引き出して演奏している気持になれないのです。「おまえはもっともっと良い音が出るよなあ」と、ちょっとすまない気持でいます。

 

楽器との付き合いは美しい音探しの旅ですから。終りのない旅ですから。これからも相棒とふたり楽しくやって行こうと思います。