海辺の風景

海野さだゆきブログ

『行商人に憧れて、ロバとモロッコを1000km歩いた男の冒険』春間豪太郎 著

まさにタイトル通りの内容です。そもそもの始まりは、フィリピンに行ったまま連絡の跡絶えた親友の捜索にかの地に渡ったことでした。観光地とは無縁の場所で作者は人生ではじめて「外部」の存在を知り、とても心打たれるのです。

 

冒険がしたい、と。冒険というのは馴染んでいる日常から、その「外部」に身を置くこと、そこで生き延びること、だと言えましょう。

 

この本は要約するのが本当に勿体ないのです。内容を紹介していたら、全文引用になってしまいます。そのくらい色々なことがぎっしり詰まっています。

 

作者はロバに荷車を引かせての旅に出るのですが、そのロバを初めとして、動物たちと「出会い」ます。その出会った動物たちと一緒に旅をするのです。

 

もちろん、危険にも出会います。その準備はかなりちゃんとやっています。さりげなく「日常会話くらいならなんとかなる」みたいなことを書いていますけど、それってかなりの努力です。対人スキルも客引で磨いたとさりげなく言っていますけど、危ない目にもあったに違いありません。

 

格闘技、ナイフ術もある程度つかえるところまで行っています。そこのところはちゃんと認識しないといけません。作者の文章が軽やかなので、この旅みたいなことが簡単にできるように思ってしまうかもしれないですが誤解です。注意しないといけません。

 

命懸けだから楽しい、命懸けだから命を、自他ともに大切にするのですね。「外部」に身を晒したからこそ、「世界」は姿を現したのでしょう。

 

途中、涙が止らない、笑いが止らない、恐怖が止らない、と、揺さぶられっぱなしです。

 

絶対のお勧め。

『大阪的 「おもろいおばはん」はこうしてつくられた』井上章一 著

阪神タイガースファンとして、なかなか信じてもらえない事実に「昔は甲子園ガラガラだった」「六甲おろしなんて歌わなかったし、俺も知らなかった」があります。今を基準とすると見えないことは多いと思います。

 

現在は「東京史観」の時代です。と、言っても、これ「東京=東京都」ではないわけです。はい、八丈島や、曇取山まで東京都ですが、そういう行政区画を「東京」と思う人はいないでしょう。「山の手」のごく一部を「東京」だと思っている人が普通なんです。

 

メディアの都合、その時々の政治の都合で、土地のイメージなんてころころ変えられて来たというのは確かだと思います。

 

そうだよなあ、毎日満員電車通勤に使っているその路線って、「汚穢列車」って呼ばれていたんだよ、なんて誰が信じます?ねえ(笑)。

 

実際、行ってみれば、大阪の中心部と呼ばれているところの「都会度」はすばらしく高いです。僕に言わせれば「飯のうまさ=都会度」なんですけど、確かにたこ焼きは美味しいですけど、それが大阪の代表的な料理だとはおもいませんので、それを尺度にしているわけではないです。確かに立食いのレベルでも大阪はうどんが圧倒的にうまいですけど、それが大阪料理界を代表している料理だとは思いません。

 

古い歴史を物語る史跡が沢山あり、そこにある伝承の多さも圧倒的です。「江戸幕府以前はただの湿地」という土地とは違います。

 

井上先生は世間に流布している「大阪的なるもの」を次々と論破して行きます。これは痛快です。

 

しかし、一方でみなさんは地元をどう説明するんでしょうか?「地元民はそんなものめったに食べない」とか「地元でもほとんど知られていない」とか、そういうこととどう向き合うのでしょう?「地方再生」なんて、実はそうした「足下を見る」ことから始まるように思います。はい。

 

 

 

 

 

『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』大森藤ノ 著 ヤスダスズヒト イラスト

ラノベでは、設定の面白さ、筋運びの良さで人気になるものと、文章の良さでそうなるものがありますね。これはどちらかと言えば後者かなあ、と思いました。

 

例によって「ねーよ帝国主義」です。再度説明しますと、「そんなヤツいねーよ」「そんな女の子イネーヨ」「そんな展開ありえねーよ」と、つっこみを入れれば入れられる、しかしそこが揺るがない世界を展開する小説群の傾向を僕はそう呼んでいるのです。嫌ったり軽蔑したりしているのではありません、それでいいんです、と思っています。で、そこは大抵のラノベがそうなんですから、この作品の特徴とは言えません。

 

主人公のお人好しぶり、もまあ、あるといえばよくある設定かもしれないです。案外モテルみたいですし、、、でもなんといいますか、読み進むと伝わってくる作者の姿勢になんか良いものを感じるんです。

 

こうしたファンタジー系世界観で、伝えられるものがあるんだ、みたいな、、、感じです。たぶん作者が先行する作品群、ラノベに限らず、ゲームやまんがなどなど、から受け取った確固たるものがある、そんな印象を受けるんです。

 

で、そこになんか惹かれて読み進んでしまうんですね。おもしろい感覚だなあ、と僕は思いました。はい。

『世界地図の下書き』朝井リョウ 著

朝井さんの小説を読んでみたかったのです。映画になったものかな、と思ったのですけど、短めだったこれを選びました。

 

読みはじめて後悔しました。僕は子供もの、とか施設ものが苦手なのです。すぐにページを閉じて、かなりの時間放置していました。

 

色んな本を読み終え、電子書籍本棚が整理されて来て、埋もれていたこの本の表紙を見ることが多くなり、せっかくだからと決断して読みまじめました。

 

いざ読み始めると、文章の軽快さ、生き生きとした描写に引き込まれて、ずんずん読み進みました。どんな魔法なのか、この小説には子供の時間が流れているのです。そして子供達の生き生きしていること!。すごい文章力です。

 

さて、最後に作者は唐突に語り出します。変らないヤツは変らない。だからいつまでも同じところに我慢している必要なんてない、と。

 

加川良さんの『教訓』が僕には聴えるようでした。作者には同じ様な静かなでもガンとした怒りがあるように思いました。子供達にこれまでと同じくらいの希望がこの先にあるのかは事実として語るべき事ではないでしょう。

 

ジェリー ガルシアが言ったそうです。若い人たちウッドストックの時代を賛美して、あの時代に行きたいと彼に言った時

 

ウッドストックだと?あんなクソな時代にか?」

 

僕も十代から子供に戻りたいとか、あの時に戻りたいとか、若い頃に戻りたいとか言う言葉を聞くと、同じように、でもこころの中で吐き捨てていました。

 

希望は未来に、いえ現在にしかないからです。

 

 

『GRIS』

STEAMで「GRIS」をやりました。「風の旅人」に影響を受けた横スクロールのゲームです。テーマははっきりとしています。「喪失と回復」。

 

最初、少女が「声」を失うんです。そこから彼女の旅が始まります。これ「内なる旅」なんですね。ゲームとしてはパズルですね。画面が小さいとヒントを見逃してしまうかもしれません。

 

グラフィックがとても綺麗です。それだけでやる気が出ます。途中でくわす困難さは、彼女の抱える問題が象徴化されたものだとすぐに分かりますので、自分がプレイヤーなのですけど、おいがんばれ、ここでめげるなよ、と彼女を励ましてしまうのです。

 

ただ、途中からちょっと「長いなあ」と感じる事があります。ゲームとしての課題が主題との関連性が見えず、ひたすらゲームとしてクリアしてゆくって感じになると、辛くなります。でもはやり素晴らしいグラフィックに釣られてがんばってしまうんですけど。

 

終盤、彼女が「声」を取り戻すところは感動しました。おおお。でも、それで終りではないんですね、このゲーム。だよねえ、プラスマイナスゼロで終ったら、達成感ないですものね、苦労した甲斐がありませんから。

 

最後、横スクロールでは難しいでしょうけど、彼女の「世界」が広がった感じを絵として表現してくれたらもっと良かったかなあ、とは思いました。「風の旅人」は3次元でしたから、そこはばっちり表現されていましたね。終った時に「指輪物語」の読後みたいな充実感がありました。このゲームはそこまでのものはありませんでしたけど、上質なセラピーを経験したようなものが残ります。

 

色々言いましたけど、これは傑作です。お勧めします。SWITCH版もでるみたいですし、多くの人にやってもらいたいです。

『エーテルギア』小山タケル 著 シロウ イラスト

魔術魔力による動力でその活動を維持していた人間は、それを支えるわずか二万人足らずの魔術師たちを搾取していた。その状況に魔術師たちは反発し、ついに実力衝突となる。それは魔術対科学の戦争だった。戦いは魔術師たちの敗北で終り、彼らは科学の研究対象になり、人間は「人工魔術」を作り上げることに成功する。

 

しかし、そうした状況を再びくつがえすべく、魔術師は立ち上がった。壮絶な戦いが始まる。

 

ゲームの影響下、魔術というものを扱うラノベは沢山あります。この作品のユニークなところは「人工魔術」という、魔術を科学的に作り上げた技術があることです。

 

魔術というのは、別の形の科学なのかもしれません。その戦いがとてもおもしろく、読めました。うーん、なるほど。バトルはかなりシビア。いいですねえ、これ。もちろんラノベらしく「ねーよ帝国主義」も貫かれています。

 

なかなかのお勧め。2巻で終っているのがもったいない世界観だと思います。

『自殺するには向かない季節』海老名龍人 著 椎名優 イラスト

学校でも家庭でも冷たく漂うようにそこにいる、という感じの主人公。ある日、クラスメイトの少女が自殺したと聞く。彼には思い当たることがあったのだ。その思考が定まらぬなか、やはり群れから外れている同級生男子からタイムスリップを引き起こすという錠剤をもらう。

 

いらだつ気分の勢いで錠剤を飲んだ彼は本当に数日前という過去にもどっていた。戻った彼は引き寄せられるように自殺した少女と出会う。

 

粗筋を書くのが難しいです、この小説は。主人公の気分、思考というものをたどることで進んで行くからです。

 

で、主人公は自殺願望の少女とふたりで、自殺について色々と調べることになるんです。周囲には知られないように。.。.。それじゃ、秘密のデートみたいですよね。でも、これがなんというか、暗い空洞に無意味な音が響き続けるみたいなやりとりに終始するんです。

 

しかし、それでも、微妙に変って行くんです。微妙に。疎遠だった姉との関係も。そこがなかなかの読みごたえです。そして、まったくもって予想もしない結末となります。

 

よいです。僕はこういう不思議な話が好きです。そう、清水マリコさんのあの不思議な世界に似ているなあ、と思いました。是非小説を続けていただきたいと思います。読みたいです、次回作。