海辺の風景

海野さだゆきブログ

『LOST 風のうたがきこえる』池部九郎 著 咲良ゆき イラスト

地方都市、音楽に目覚め、その才能を開花させようとした少女が事故で亡くなる。後悔の日々を送るバンド仲間であった主人公は、遺品として彼女が思いついた歌の歌入れに使っていたスマホを受け取るが、なんとそこに彼女から電話がかかってくる。彼女は「向こう側の」東京にいて、そこで音楽活動をしているという。

 

平行世界、なのでしょうか。平行世界を僕らが認識するのは難しいようですが、、、、。「浅茅が宿」のような怪異談として読みました。どうしても音楽を続けたかった、東京に出て活動をしたかったという少女の念が現実化したということでしょう。

 

バンド活動、アマチュアレベルでの録音、などなど、記述がとても具体的で、実際そういうことをしている僕は作品世界にぐっと親しみを感じて読み進みました。作者さんがそういうことをやっていたんですね、なるほど。

 

彼女の才能をなんとか世に出したいと思った主人公は大学を休学して、実現のために動き始めます。

 

どんなレベルであったにせよ、音楽に夢を持ったことがある人ならば、クライマックスの奇跡のステージに胸打たれると思います。

 

今は発表ということだけならば、ネットに動画をuploadする、という手軽さがあるのですけど、音楽は演奏者が聞き手と同じ空間を震わせることで、はじめて生きたものになる、というのも確かだと思います。

 

録音が死んでいる、というわけではないのですが、やはり別物、音楽はライブが基本でしょう。写真と実物くらい違いますから。

 

若い人は、「それでも」夢を追ってください。この老人はその夢の残滓を楽しんで人生の夕暮れを楽しんでいます。

 

なかなか良い小説でした。