海辺の風景

海野さだゆきブログ

『アンダーカレント』今泉力哉 監督

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ここのところ映画館に行くことが多くなりました。ムビチケを利用したのがきっかけとなっています。色々な作品の公開がわかると、あっこれは観たい!という気持が次々と沸き起こってきました。

 

びっくりしました。あの『アンダーカレント』が映画化されていたなんて。

 

映画化したい気持はわかります。だって僕でさえ読んでいて静かな映像が浮ぶんですもの。大学生時代行くところがなくて、映画館に逃げ込んでやたらめったら観ていた、文字通り一日中、という誇るべきなのか恥ずかしく思うべきなのか分からない時期を生きていた僕は、観る前からだいたいどんな映像になるか想像がつきました。

 

僕が一番逃げ込んでいたのはいわゆる「ポルノ映画館」でした。だって、低料金で4本5本観られるんですよ。そして、実はあのころ、日本映画は完全に斜陽で、若いスタッフには働く場所がほとんどなくなっていたんです。

 

ポルノでは濡れ場さえある程度時間があればなんでもオッケイ、なんだそうです。で、僕は衝撃を受けたんです。若い監督たちの作品のレベルの高さに。

 

逃げ込み先だったはずの場末の映画館は、僕には宝の山になったのです。

 

それこそしらみつぶしに映画館をまわりました。当時は東京は世田谷区に住んでいましたけど、群馬県とかまで遠征しました。場末のポルノ映画館でさえどんどん廃業に追い込まれていました。つぶれる前に行きたい!引き籠もり状態だった僕はいつしかやたらとでかけるようになったのでした。

 

で、僕は日本映画の映像に特徴的な色味といいますか、絵の手触りがあることを知りました。そして、物語のテンポ。眠い(笑)。

 

映画『アンダーカレント』もまた地方都市が舞台ですけど、日本映画の色味、手触りとはそうした都市の色彩、風、匂いなんです。わかります?

 

少し彩度が落ちた色彩。時間がもたらした不揃いの建物、道、などなど。意外と日中人気がない。。。。

 

村上龍さんは『希望の国エクソダス』で、見ていると絶望がしてくる風景、と都市郊外を表現しました。そういう都市はちょっと前、といってもあの列島改造論のころに最後のピークがきて、そこまで積み重ねられた繁栄の地層が以降容赦亡く風化して、忘れられ、捨てられてきたのではないかと僕には見えます。なので、あちこちに「昔の時間」が顔を出しているんですね。それが風景の彩度を落している、という感じです。

 

そうした都市郊外圏には何故か、周期的に中心から波紋のように広がる黒い風が吹きます。

 

  

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この事件が世間に「オタク」という言葉を知らしめと思います。同世代の色々な人が論じました。

 

僕は事件の直後、「彼」がおそらく日常的にも使っていたであろうルートを、車で走りました。知っている道でしたから。よせばいいのに夜も走りました。。。。。その時、僕にひらめいた事がありました。

 

友人たちも興味をもってくれて、3人で行ったことがあります。その時、職業カメラマンの友人が

 

「ここ、いいところだね」

 

僕は、はっとしました。そうなんです。ここは良い感じの土地なんです。古く延喜式の大きな神社があり、その昔は鵜飼まで行われたとか。そして、いわゆる塩の道の要所で市が立ってにぎわっていたのです。

 

そうした土地の記憶がところどころ鈍い光を点滅させているのです。。。。。

 

僕は原作にも感じましたが、本当の主人公は「土地の記憶」なのではないかと思います。人の営みは「土地の記憶」としてそこに堆積して、光、風、匂いとなって、そこに住む人間の何かに働き掛けるように思うのです。

 

しっかし、井浦さんの演技には脱帽しました。まんがのイメージそのまんま。なんに違和感もありませんでした。

 

細野御大の音楽も素晴らしかった。華やかさではなく、何か奥に深いものを感じる、そういう音楽。もちょっと生かして欲しかったですけど。。。

 

観ていると後半眠気がするかもしれませんけど、見終わって数日経つと、やっぱり良かったなあ、と思いますから、感想を早まらない方が良いですよ。。。。

 

ぜひ、静かな劇場で観てください。