海辺の風景

海野さだゆきブログ

『Blue Giant』立川譲 監督

テナーサックスで世界一のジャズプレイヤーになることを決意した若者の出会いの旅、というまとめでいいのかな、そういうマンガが原作のアニメ映画が公開されました。僕は公開初日初回で鑑賞しました。

 

僕は原作のマンガを読まずに臨みました。映画は素晴らしい出来でした。色々な表現を試みていて、楽しめました。ただ、「あー、なんか誰かが不幸になるっていう展開は止めて欲しいなあ」と思ったら、嗚呼。。。。

 

良い話。僕も思わず涙が出ました。ですが、なんかモヤモヤしたのです。それは

 

このアニメ映画はマンガをアニメ化した作品としてすばらしく成功しています。でも

 

アニメはジャズじゃない。

マンガはジャズじゃない。

 

このアニメ映画で現実のジャズシーンについてあれこれ思うのは勝手ですけど、やはりアニメはアニメとして評価、語るのがよいのではないかと思うのです。

 

現在のジャズシーンについてはこの映画に先立つことしばし、つまり映画とは関係なくミートたけしさんによって語られていました。

 

www.youtube.com

ミートたけしさんは、YouTubeでは否定的な見出しと、否定的な意見表明が一目を引くことを分かっていて、わざわざ毒舌の芸風を選んでいるのです。その毒舌を楽しめるのかどうかが評価の分かれ目でしょうけど、この動画はさっそくあまり好意的ではないコメントの嵐となりました。

 

ジャズが集客力を失って久しいらしく、この手の話題はだいぶ前から耳にはしていました。答えは出ていると僕は思っていました。

 

素晴らしいアニメ映画がたまたまジャズシーンを舞台にしていて、ジャズを愛好している方がアニメ映画に引き付けてあれこれカタルのは仕方がないのかもしれません。でも、ジャズはジャズ、アニメはジャズではないですから、、、

 

decadence-anime.com

映画を監督した立川監督のこの『デカダンス』はすごく面白かったです。絵もすばらしく良く、本当に楽しめました。とても独創的な表現があちこちにありました。ひとことで言えば、アニメの抽象化の力を意外な方向で使った、という感じでしょうか。

 

まんが『Blue Giant』をアニメ化するにあたって、問題になる部分を想像してみました。

 

まんがでの問題は「音が聴えない」ということでしょう。主人公の吹くサックスの音は聴く人を圧倒するという話なんですけど、その音がどういう音なのかは読者にはまったく分かりません。当たり前です。

 

作者はそのことを傍証を積み重ねることで克服しようとしたようです。つまり

 

主人公の音を聴いたひとのリアクションによって音の凄さに説得力を持たせる

 

まんがの作画で補助線ですとか、パースの歪みですとか、アングルとか、色々工夫していますけど、それは「主人公の身体的な動き」の表現です。音は表現していません。できません。

 

読者の僕はここで当惑しました。だって、主人公の音を聴いた人を僕はまったく知らないわけですから、どうやってその人の言動や価値観に信頼を置くか、、、です。

 

従来ですと、大御所の評価とかコンクール入賞とか売り上げとかでそうした評価を担保するのがよくある手でした。それだと読者、聴視者にも現実的な手がかりを与えることになりそうです。

 

ですが、このマンガに出て来る人は普通の市井の人だったり、小さなライブハウス、楽器店、音楽教室のオーナーだったり、とまあ水戸黄門の印篭みたいな効果を発揮するのは無理な人たちです。その人たちが感動した、すごい、とか言っても「ローカルヒーロー」にも届くかどうか、、、

 

ですが、作者は案外そうした印篭なしのひとたちを描き込んでいます。そして、彼らはみんな「いいひと」なんですね。その「いいひと」は僕らにもわかります。

 

で、その「いいひと」への僕らの親しみが主人公の評価者としての担保になっているのですね。

 

うーーーーーーーん。

 

主人公の父親はスーパーの店長らしいのですけど、コスト感に疑問があるようです。え?そんな人が店長になる?

 

で、その父親が主人公が東京に出て世界一のジャズプレイヤーを目指すと言ったとき、あっさり賛同するわ、店舗営業時間外で演奏させるわ、、、、、小学生の妹の方がまともに「お金の問題」として不可能だと言ってますけど、、、

 

いいひと、というより困った人です。

 

師匠はレッスン費用ただにする。ライブハウスオーナーはリハやらせて確かめもせずにいきなり自分の店のライブに出させて客の不興を買う。。。。。

 

ねーよ。。。。。

 

プロを目指す後輩にお金がどこから来るのかを厳しく認識させるのが先輩ミュージシャンのやるべきことでしょう。師匠の通ったバークリーだってどんだけ学費と生活費がかかったか、、、。今、バークリー年間500万だそうで、、、

 

ま、この「いいひと」に傍証を積み重ねさせるというのは、このまんがではずっと続くのですね、、、、、、どうも作者『岳』というマンガでもその手法を駆使した様子です。好きなんですね、そういう語り口が。

 

だからおまけのマンガがインタビューなんですね、いいひとの。。。。

 

で、その聴えない音を立川監督はどうしたのでしょうか。動きは今時のアニメらしくキャプチャーで作ったりしていますが、

 

抽象的表現

 

でました!『デカダンス』でも目を引いたこの手法です。やりましたね。流石です。

 

上原さんたちが聴えない音を現実化したという風に片付けてしまうのにはあまり賛成しません。だって、僕らが観ているのはアニメですから、彼らのライブではないです。上原さんたちのライブがあんな画面になるわけはないですよね。

 

アニメ化というのは「命を吹き込む」ことです。聴えない音を抽象化して見える絵に還元定着させる、素晴らしい方法論です。酸欠状態をつくることで鮮やかな出色を作り出す陶芸の「還元」そのものですね。加算方向ではなく減算方向でゆく、という。

 

描き込まないことでできあがる絵でこちらの想像力を刺激するわけです。

 

楽しい映画でした。『プロメア』もそうでしたが、リアルとか描き込みだけがアニメの力ではないですよね。

 

次回作も期待します立川監督!