海辺の風景

海野さだゆきブログ

ライトノベル読書記

「薬屋のひとりごと」日向夏しのとうこイラスト

これには参った。主人公は毒マニアの「薬屋」。その毒マニアっぷりで不可解な事件を解決する。つまりアガサの後継者なんだね。

 

短いエピソードが並ぶ構成なので読んでいてたるむことはない。主人公がきわめてヲタク的に冷静なので、感情移入して読み違えることもない。

 

言葉は適切かどうかわからないけど、この主人公の「他人事」ぶりが、舞台となっている後宮のどろどろしたところを浮上させる。もともと花街に住んでいた、それもしたたかに、せいか、彼女は誰にも感情的に入れ込まず、逆に入れ込まれもせず、策を講じて泳いで行こうとする。

 

そのしたたかさが痛快だ。イラストも優秀、これ、書き直された上での「改訂版」という。確かにそれこそ、しぶとく生き残って欲しい作品だね。

 

「夏の終りとリセット彼女」境田吉孝著 イラスト植田亮

正義感暴走気味だった風紀委員の女の子は事故で記憶を失う。生活関係の記憶が失われた他、彼女は以前と変わらない。その彼女と主人公は付き合っていたという。

 

主人公の独白ぶりが過剰だ。どうしてそんなに人の目を気にするのかと思うくらい気にしている。その様子と正義感暴走気味の女の子の対比が、いや平行線が延々と続く。

 

主人公がものすごく気にしているのは、スケープゴートを生む集団心理だ。彼はその線で出来事を読み解き、その線で無難な行動を選ぶ。

 

なーんで美女で、正義感暴走気味を除けば、素直そのものという女の子を遠ざけるのかなあ、とずっと思って、我慢して我慢して読み続けた。

 

最後、怒涛の告白。そうかい。そうかい。ま、でも僕もこういう感じで自縛に自爆だったなあ。。。

 

僕の場合、大学4年の最後の最後で「俺は外に出る」って、ぱちーんって自分で意図的に生き方を変えた。ずっと変わらないと思っていたのに、あっけなく僕は変わった。ま、あとでそれが観念操作、一種の自己欺瞞みたいなものだったと分かるんだけど、それにしても変われたのは確か。なーにしろ近しい人がみーんなそう言ったくらいで。

 

でも、この主人公みたいにずぶずぶの中からあがいて出て行くっていうのが、本当だよ。でも、彼には彼女がいたからね、だから出来たんだよ。僕は最後に手痛く失恋して、パートナーの力を借りての脱出ができなくて、仕方がなくてボッチ脳内革命だったんだ。

 

いいよね、苦しい坂を上った先に彼女が見えるって。恋愛ってそういうのが最高のかたちだよ。