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海辺の風景

海野さだゆきブログ

「それがどうしたっ」全3巻 赤井紅介 著 得能正太郎 イラスト スーパーダッシュ文庫

ライトノベル

場面は主人公の極度の「言葉がでない」状態の描写から始まります。その空まわりぶりは気の毒なくらいですが、なぜか彼は幼なじみの少女とその女友だち、両方とも美少女、出ましたねーよ帝国主義、には気楽に話ができるのです。

 

主人公の家庭状況が最悪なことがわかります。母親は出奔したまま行方しれず、父親は妻の家出以来もの狂いになり、なにやらの研究と称してこちらも行方不明。おまけに父親は生活費も残していないという保護者義務放棄。逮捕ものですよ、これは。

 

彼の状況を学校は把握しているのでしょうから、完全に児童相談所扱いなはずですが、、、、幼なじみが暮すお隣も知っているでしょうに。でも、これ若者向け作品特有の親の不在という設定なんですねえ。なぜ親の不在なのか、は前にも「それにふさわしい作品の時に」と言いましたけど、この作品でちょっと分かります。

 

さて、その主人公は生活費をペット捜索という仕事で稼いでいるんですね、しかし、彼が町中を探すわけではなくて、公園に陣取っている不思議な猫が実際にはその仕事をしているんです。

 

そんな不安定な収入で暮して行けるわけもなく、彼は毎日もやしを食べている状態です。そのもやし生活に乱入者。突然帰宅した父親が少女を残してまた身勝手な行方不明に。

 

この少女、小学生くらいに見えますが、本人曰く悪魔。実際翼がある。。。。。。一般常識ゼロの少女に振り回される生活が始まります。

 

最初の事件は乳児置き去りです。あり得ないことにこの乳児を主人公と悪魔少女が面倒をみることになります。これはいくらなんでも無理でしょう。話としては、乳児置き去りにした夫婦への、主人公と悪魔少女の姿勢が、どこか主人公自身の置き去りにされている境遇と重なる、ことで生じる心理的な変化ってことでしょうけど。

 

次の事件は迷い猫。この事件は幼なじみの少女との関係にも変化を与えます。彼女は主人公に心を開かないのです。彼女は心臓に難病をかかえ、短命が約束されてしまっているから、それを思うと自分も相手も辛いのです。

 

色々な事件、出来事を経て、主人公は変って行きます。人とのかかわりのきっかけは悪魔少女であり、不思議な猫だったりするのですけど、例のコンパニオンアニマルですね、人との壁は次々に倒れて行き、最後には幼なじみの少女との壁も壊します。

 

そのプロセスはなかなか小気味良いです。無理な展開もありますけど、空回りしかしていなかった主人公の変貌ぶりの前に、ま、いいかって思ってしまいます。

 

しかしながら最後まで母親出奔の理由は不明です。そう、不明。若者向作品によくある親の不在問題ですけど、要するに親が何をやってきたのか、やっているのか分からない、分からないものは「無い」に等しい、故に、親は「いない」んですね。

 

そもそも事の発端は父親が悪魔を連れてきたってことです。この悪魔は「世間知らず」「イノセント(守られる存在)」の体現でしょう。おとなりの少女の友人である天使は「世界知」「守護」のそれ。主人公は悪魔少女とつきあうことで、自分の中の「世間知らず」「イノセント」を変化させたということでしょうね。父親はその契機を与えた存在。最後の幼なじみの少女との決着の契機も父親です。この作品では親は一瞬の契機として現れ、消える存在として描かれているようです。

 

なかなか面白かったです。まあ、言ってみれば、悪魔少女はわがまま妹もしくはダメな子分、不思議な猫は近所のご隠居、天使は頼りになる近所のおばさん、っていうのが古典的な理解でしょうか。