海辺の風景

海野さだゆきブログ

『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』大西 康之 著

山一證券の最後の処理を請け負った「しんがり」といい、なぜか会社の最後の本が気になる私です。最高意思決定の場に現実なるものはしばしば存在しない、特に負けているときには、ということでしょうか。

 

負けに不思議の負けはないそうです。そうですね、こうすれば勝てるという理論やら実践書は沢山あるようですけど、うまくいった人の後付けの理屈のような気が、あくまで気が、ですが、します。

 

対して負けは、負けた時点で時間が停止しますから、分析しやすいのですね、きっと。

 

色々な話が出てきますので、僕の感想もまた多岐にわたってしまうのですけど、あえてひとつ書くとすれば、

 

三洋もまた時代の勢いに乗っていた企業だったのかなあ、ということです。野球じゃないですけど、国の経済というのも、実は団体戦なのでしょう。うまく行くときには、何をやってもうまく行きますけど、だめになると、何をやってもだめになるようです。

 

野球で言えば、やはり巨人の黄金期、が勝利団体の見本なのでしょう。そこでいえば、三洋は「野武士軍団」的だったのかもしれません。今、阪急や近鉄のDNAは?なんて、、、話すだけ寂しいですね。そんな感じがします。

 

三洋のエフェクター向け「外部充電池」。これ、傑作です。これほどステージで役にたつものはないのじゃないかと思うのです。コードの取り回しからの解放って、ステージでの悲願だったわけですから。僕も持っています。でも、、、、

 

DEC。好きだったなあ。アルファ搭載のワークステーション、中古で何台も買いました。でも、、、、

 

僕らは、そう、買うだけではなく、株式で応援するという道もあるんですよね。その方がいい場合が多いような気がします。ここは潰れては困るなんて会社があったら、株で応援、ですね。

 

ただ、経営が、いまいちだど、その応援も届かないですし、規模が大きい会社は貧乏人が応援するって感じでもないでしょうし。

 

さて、三洋のDNAは確実に僕らの明日に関係したところで、再び姿を現す感じがしますね。

 

しかし、、、10万人。。。。。経営陣の責任は大きいですね。。。。。

『ざるそば(かわいい)』つちせ八十八 著 憂姫はぐれ イラスト

ギャグ、特にナンセンスギャグは揺り動かないポリシーが必要です。正面切って設定された人物やらなにやらを簡単に置き換える程度では本歌取りにもなりません。元ネタを逆照射することで、元ネタが持っていたテーマ性を先鋭化するくらいの根性がなければ、単なる揚げ足取りでしょう。

 

さて、鉄腕アトムの血筋、すなわちデカルトの「亡くなったわが子の生き人形」の直系なんですね、このかわいらしい「ざるそば」ちゃんは。

 

でも、お父さんは「イデオン」のドバ=アジバ並の何かこう、やりきれなさを持っているわけでもないのですね。あ、そうなんです。僕はこのかわいい「ざるそば」ちゃんには、宿命の「姉」か「妹」の「ざるうどん」がいるのだと思い込んでいたのです。二人は正面切って対決

 

「卑怯者の弾があたるものかよ」

 

と。。。。。。。は全くならなかったのが残念です。

 

色々な作品からの引用がなんかこうずぶずぶなんですね。でも、それは僕には正直な作品の証左のようにも思えました。20世紀の作品群が消費され尽くして、ふにゃふにゃなんでしょうね、リアルタイムで作品を経験していないであろう世代の人には。

 

ですよね。僕らの世代も前の前の世代の作品をふにゃふにゃにしてしまっていましたから。

 

「なんじゃこりゃーーー」

 

と竹中さんが登場したときに、ジーパンの死が、何の「死」なのかなんて、僕らの世代には全く伝わっていなかったんです。僕は例外的に前の前の世代にシンパシーがあったので、「傷だらけの天使」の「死」同様、何の「死」なのか、受け止めたつもりですけど、偉そうですかね。

 

今の若い世代の方って、そばの出前なんて頼みますか?頼みませんよね。そもそも町のそば屋さんが絶滅の危機ですよ。そばは立ち食いかカップ麺でしかなくなっているのではありませんか?

 

そばの出前を頼むって、一般家庭ではお客さんが来たときの「ごちそう」だった、なんて信じられます?

 

この作品の「ざるそば」は、そうした「ハレ」の雰囲気をまとっているから、巨乳でかわいいのですよ。

 

なので、この作品が、「ざるそば」のお父さんの「昭和テルミドール」だったりすると、「くれよんシンちゃん」のあの映画を超越するような壮絶なルサンチマン作品になったのではないのかしら、と昭和ど真ん中のおじいさんは思うのでした。はい。

『きょうの日はさようなら』一穂ミチ 著

父親が突然つれてきた親戚の女の子。彼女は家族を失っているということ以外は謎が多い。同世代の娘、息子のふたりは、彼女のことを知ってゆくなか、想像もできなかった事情を知る。そしてやがて訪れる別れ。

 

これは一種のタイムトラベルものと言ってよいのではないでしょうか。本人の時間が止るという形のタイムトラベル。その意味では「神秘の世界エルハザード」を僕は思い出しました。あれもせつない話でしたが、これはなお切なさがつのるお話でした。

 

僕は今時のもののしゃべり方が、年寄りっぽく、嫌いです。なにか、大切なものがあやふやになるものの言い方のように思うからです。実は自分の世代のものの言い方も好きではありません。古典などを読むと、語彙の豊かさとか、比喩、暗喩自在の表現にうたれます。そういう言葉がいまはもうないのです。

 

では、擬古文でいいのか、と言えば、そうでもないように思います。肯定的にいえば、今のものの言い方は、今を確実に表現していますから、「後に」振り返れば、時代を鮮やかに蘇らせるのですね。

 

謎の少女と、いまどきの娘と息子との最初のやりとりが言葉をめぐってのあれこれであるのが、僕にはとっても良かった。そこが核心なんです。この物語の。たぶん。

 

話は謎解きを軸に進んで行きます。父親から真実を知らされ、娘と息子は否が応でも大人になります。自分達は過酷な現実からどれだけ守られてきたのかを知るからです。盾になっていたのは誰なのかを知れば、親に向かうことが社会に向かうことにならなくなり、直接社会と対峙しなければならないことを知れば、誰でも大人になります。

 

父親が真実のすべてを吐き出した時、彼は父親としての役割は終り、子供達は親を社会との仲介者にできなくなり、その意味ではこどもではなくなったのです。これは家族の終焉の物語でもあるのではないでしょうか。

 

最後のシーン。辛かったです。でも、不思議と沸き起こる、希望もまたそこには確実にありました。

 

すばらしいお話でした。

ニパ子ちゃん万歳

ご存じゴッドハンドが作る精密ニッパーのキャラクタ。僕はあそこまでの切味は使いきれないので、「普通」を使っていました。

 

静岡の鈴木酒店さんがニパ子ちゃん酒を作ったと聞いて、注文してはや幾とせ、なんどニパ子ちゃん酒第二弾がでたというので、早速注文。

www.sake-online.com

ついでといいますか、めがね拭きも買いました。

 

と、思ったら、なんとゴッドハンドさん、自転車用ワイヤーカッターを出したというではありませんか。即座に注文。

 

ニパ子ちゃん関係の製品は色物どころか、全部本格派なんです。こういうキャラクタ使いといいますか、キャラの立ち方って僕は好きです。

 

バスタオルも買いたいなあ、次にニパ子酒を頼むときに一緒に買おうかしら。

『非常識のすすめ』里崎智也 著

千葉ロッテマリーンズの正捕手だった里崎さんの野球観を詰め込んだ本。バレンタインの子供たちである彼からも監督バレンタインの素晴らしさが見えてきます。

 

阪神ファンなので、僕はこういう言い方をしています。

 

野球ファンならば、ロッテかスワローズのファンになるはずだよ。

 

え?阪神って野球やっているのじゃないかって?ちょっと違います。阪神は「阪神という現象」なのです。

 

マリーンスタジアムでみるのはとても楽しい経験です。あ、僕巨人戦をみたことがありますよ、やっぱり面白かったです。とくかくマリーンズには作戦があります。チームでその作戦をがっちりやってゆく、そういう感じなんです。個人技に頼ったどこかのチームとは大違い。なので、その作戦がはまった時にはとんでもなく強く、かつおもしろい野球をみせてくれます。

 

その中心にいたのは間違いなく里崎選手。興味ありました。とっても。

 

持ってますね、里崎選手。もうハナから「前後裁断」の姿勢をもっていますし、闘争心、研究心、企画力、コミュニケーション力。。。。。。。持ってます。これはかなわないわけです。はい、僕も濃霧コールド状態ですね。

 

その里崎選手、野球はたのしくやった、と言い切っています。素晴らしい、すがすがしい。優勝チームに名捕手あり、ですね、野村さん。

 

現役を退いたいまでも、野球コラムは面白いですし、好きですね、こういう人。

 

わがタイガースもこういう人が扇の要にいたチームと日本シリーズができたのですから、幸せだったと思いましょう。はい。。。。。。

『ローカル女子の遠ぼえ遠吠え』瀬戸口みづき 著

主人公は静岡出身。東京に就職したものの、うまくゆかず、地元に戻ってきました。

 

自分は「アリとキリギリス」のアリだと思っていました。でも都会に疲れ、夢も行き詰まり地元に戻ると、狭いぬるま湯から出ずに暮していた友人たちが、家庭をつくり巣を作ってちゃんとした大人になっていたのです。(引用)

 

職場に「失言が原因で左遷された江戸っ子男子」「寿退社が目標の地元から出たことがない女子」「ブラック企業から生還した友人女子」などがいて、主人公のギャップ感を増大させる、という感じで話は進みます。

 

静岡ねた満載です。僕は東海道歩きがライフワークですから、静岡は東海道周辺に限ってですけど、すぐに目に浮かびます。その土地の事情は旅人にはわかりませんが、親しみのある土地なので、地元の人による話はとってもたのしくもあり、ためにもなります。

 

お、尊敬するバンド、EX-GROOVEさんも静岡ですよ。

 

静岡は食べ物が美味しいんですよ。お酒も抜群。浜松に住めたらいいなあ、などと思ったことも幾たびもあります。もし、静岡移住が実現していたら僕も「ギャップ」に遭遇するのでしょう。

 

女子ゆえの「ギャップ」も、笑えないレベル。。。。大変ですよね。。。。。。でも、まあいますよ、地元では活きないだろう女子って。。。。いわゆる地方女子の鉄板ルートに乗れない、乗り切らない、そういう人が。。。。ね。。。。男だってそうだと思いますけど、女子は特にプレッシャーがあるみたいで。。。。

 

新幹線のぞみが静岡全throughというのは、僕も気が付きませんでした。日本の大動脈の一番長い距離を受け持っているのに。。。。。。静岡、応援します。近所のスーパーでなぜか黒はんぺん売っているので、よく買っていますし、毎日いただいているお茶はここ3年以上掛川茶ですし、近所の酒屋になぜか白隠がおいてあるし。。。。食べることで応援しています。

 

今月末に夫婦で沼津に行くんです!。御用邸をみて、千本浜みて、沼津丼食べて、地酒呑んで、、、、、楽しみです。

 

『今日のユイコさん』秀河憲伸 著

少年マンガの恋愛ものもまた、ねーよ帝国主義が席巻しています。このまんがはいわゆる「ツンデレもの」に分類されてしまうのでしょうが、それだけではありませんでした。そのツンデレの内側に入り込み、色彩豊かに描いた傑作。

 

つり目でかわいい、黒髪ロングの、スタイルよい女の子。もの言いはきついけど、その後にみせる心情はまっすぐで。。。。。

 

ねーよ。

 

このまんがをためし読みで最初の1話くらい、もしくはためしに1巻目買って読んだ方は、「なーんでツンデレものか」、ちょっとこの女の子のきつさはついてけねー、などと思うかもしれません。

 

そこでこの話を読み終えてしまうのはまったく勿体ないです。

 

マンガ家が恋愛ものを描くときの心情ってどういうものなのでしょうか。色々あるのかもしれないですけど、僕はこの作品に

 

「こいつらにこんな恋をさせてあげたい」

 

そんな作者のキャラクターへの思いを感じ取りました。なので、実は最初試し読みで終りそうだったのですけど、思い切って全巻購入したのです。

 

その「こいつ」はもしかしたら過去の作者自身であるかもしれませんし、知人友人かもしれません。いずれにせよ、つきあいだせば出くわす困難につまづいて終ってしまいかねない場合でも、「こいつらにはこういう風に乗り越えさせたい」と筆が進んでいった、そんなものが読み取れるのです。

 

ふたりのなれそめはずっと不明です。気になりますよ、すごく。そして、最終巻、それはすこしずつ、すこしずつ描かれて行きます。それを読み進むうちに、読んでいる僕もまた、「こいつらにはこういう恋をさせてあげたい」という気持でいっぱいになりました。

 

いいですよ、恋愛は。人を変えるって、その通りです。どうせ変るのならば、こんな風に変りたいですよ。恋人は、妻は、最後の最高の友人でもあるわけです。

 

還暦近いじじいが言います。お勧めだよ、これは。