海辺の風景

海野さだゆきブログ

鈴鹿峠越え 前半 関宿から土山宿

人生の終りが見えてきて、やり残したくないことをやる、ということに切実さが出てきました。

 

夫婦でやりたいと思ったことのリストは10年前から書き出して壁に貼ってあります。その中の一番が鈴鹿越えでした。ようやっと実現。文章だけで、どれだけ伝わるかわかりませんが、がんばります。

 

夜行バス、午前4時に近鉄四日市駅に到着。

 

夜半の雨は上がり、町は濡れた路面が街灯の明かりを反射して静か。前回も雨上がりでした。不思議な既視感があります。違うのは今回は妻が同行してくれていることです。

 

JR四日市駅までは広い道をまっすぐですが、ちょっと距離があります。始発まで時間はたっぷりありますのでゆっくり歩き出します。県庁所在地の駅らしい姿が見えてきますが、まだ静かに眠っています。

 

駅舎が開くまでしばし待ちます。始発まで、テーピングをしたり、コーヒーで体を暖めます。ロビーにスタッフがホワイトボードに描いた「攻めている」まんががありまして、楽しく観ました。いいですね、こういうの、好きです。スタッフさん是非続けてください。

 

改札が開きました。何人かの方がホームに向かいます。待合室が暖かくて助かります。まもなく列車が到着。

 

列車での移動距離はちょっとあります。段々と明るくなるなか、車窓で東海道を確認しています。いつか、また歩くことができるかなあ、、、今、田子の浦で止まっていますから。

 

関駅で買っておいたおにぎりで朝食。霧が立ち込めたモノクロームの世界が次第に色を帯びてゆく有り様が本当に美しいです。

 

お隣の道の駅でトイレを済ませてから、国道を渡って宿場へ入ります。通勤の車が結構飛ばしているのがちょっと怖いです。ちょうど宿場の真ん中で東海道に入ります。

 

まだ眠っている街。関宿には素敵な感じのお店が見受けられるのですけど、まいど早朝に来ているので確かめられないのが残念です。いつの日か日中に来ることがあるのかなあ.。.。。

 

「道が微妙にうねっているのが自然な感じでいいんだよね」

「そうだね」

 

宿場から国道へ。大型トラックが多く、下りでスピードが出てちょっと怖いのです。歩道はちゃんとありますけど、車の風圧はちょっとね.。。

 

僕らは雑談し続けています。NHKラジオでやっているThe Alfeeの「終わらない夢」という番組があります。僕らは夫婦、別々の場所ですが毎週聴いています。メンバーの話が面白いのですが、その話題がそれこそ終わりません。

 

道は時々旧道になります。その度に国道を渡らないといけないんですけどね。

 

「筆捨山は諸説あるけど」

「そうなの」

「この看板の説だとさ、画家なら、途中であきらめずに翌日も来いよってならない?完成させたくないのかって」

 

「あれ、気が付いたら3km進んでいるよ」

「え、ほんと?」

「うん、すごいねThe Alfeeで3kmだよ」

 

坂下宿で完全に国道を離れます。いよいよ道は静まり、雲、霞がすごい勢いで空を走って行きます。

 

「天気変わりやすいんだね」

 

公民館裏の公園で一休み。前は分校でもあったのかなあ.。.。

 

「町並み保存って、僕が思うに建物に補助を出すんじゃなくて、職人さんたちに出す方が良いと思うんだよ。だって、いくらお金があっても修理補修できる職人がいなくなったら町並み保てないじゃん。補助が出るから安くやれますって営業かけられるし、職人さんが街で仕事するという形で"人がいる"状況を作り出せるよ」

 

「石垣だって、滋賀坂本の職人集団が存続の危機でしょ.。。」

 

石垣、格子戸、茅葺き、瓦ふき、畳、板塀、植木、、、、職人さんを守ろうよ.。。

 

いよいよ参道から本格的に「峠道」になりますが、ここまでのアプローチは長いです。それが鈴鹿の大変さなのかもしれません。

 

水の音、勾配がきつくなります。神社前で一休み。崩れてしまった建物は再建は難しかったわけです。小さくても再建したのは素晴らしいことです。ここは単なる歴史の道ではないと思うのですが。

 

石畳の「羊腸の小径」。そして。

 

「これだよ。僕は初めてこれを見たときに、東海道を歩いて少しずつ感じてきたことが言葉になったよ。"僕らは進む道を絶対間違えている"って」

「ひどいね、これは無惨」

「工事だって、いくらでも方法はあると思うんだ。旧い道への敬意のかけらもない道のつけなおし方だよ。でもこれが進んできた道なんだ。絶対間違えている」

 

苔がその醜いコンクリートを覆い尽くす。それを「保守」と称して人間がそげ落とす。でも、いつか苔はこの道が本当は苔むす道であることを取り戻すと思います。ずっとそうであったように。

 

登りは少し続いたあとで終わります。あの灯籠が見えてきます。その前の休憩所トイレで一休み。

 

父が亡くなった時、僕は3回目の東海道の途中でした。供養の旅にすると、続きを歩き始めました。そしてこの巨大な灯籠を目の前にしたときに、僕は涙が止まりませんでした。四国霊場巡りをしたいとか言っていたのに、関西はもとより名古屋にも行っていない父でした。この灯籠見せてやりたかったなあ、、、生きているうちに、やれるうちにやりたいことをして欲しかったし、僕はやる、そう思ったら涙が止まらなかった。

 

という話をして、ちょっと目がうるんでしまいました。

 

下りは国道、もとい「酷道」を我慢の歩きが続きます。片側2車線の道を大型車がすごい勢いで下って行きます。静かな山は大きな音に覆われます。

 

足に負担はかかりますが、早いことこの状況から脱したいので、ペースを上げます。

 

東海道っていっても、結構な"酷道"があちこちにあるんだよ」

「そうなの」

「もうひたすら忍耐みたいな」

「車、怖いねスピード出しているし」

 

そして、旧道へ。田村神社が見えてきます。

 

「ここ、すごいんだよ、東海道が参道だからね、大きな神社」

「ほんと、こんなところにこんな大きな神社があるんだ」

 

へろへろの僕ら、お参りは明日にして、道の駅へ。

 

黒影米うどんがすごく美味しい。冷えた体に染みます。おみやげを沢山買って、郵送してもらいます。

 

「最初に来たときにさ、ソフトクリーム乗せ放題で、パニクって(笑)」

 

ここは無料のお茶がめちゃくちゃ美味しい.。。ゆっくり休めるよい道の駅です。平日だし.。。

 

バスは250円均一。国道を飛ばします。板バネの振動が(笑)。道が穴だらけなのかと思うようなすごい音がしますが、、、そういうワケではないのです。

 

水口宿へ。

 

30分で宿の近くの停留場に到着。ホテルのとなりにショッピングモールがあります。そこに入っているスーパーで、お弁当や、お総菜、サラダ、地酒など、地元の人が食べているものを買い込みます。それが僕らの夕食です。

 

地元の普通の人が食べているものを旅人は食べたいのです。で、これが美味しいのです。レベル高いし、値段も庶民の味方です。旅先で地元スーパーの食べ物、というのを僕はここで初めてやりましたが、その後、ずっとその方針です。

 

スーパーで店員さんとやりとりした妻。

 

「関西来たって感じたよ、地元の人の普通の会話だもんね」

 

そう、そういう店でも僕は地元のスーパーで買い物するんです。

 

ローカルニュース見ながらの夕食。明日は土山宿から歩きます。