海辺の風景

海野さだゆきブログ

『デッド オア ストライク』西森 生 著 第2巻まで

あらすじの説明無用の野球マンガです。『アストロ球団』に熱中した僕には手放しで楽しめる作品です。

 

勝った者だけが「正義」の価値観からすると、確かに完全に勝ち抜きシステムである「甲子園大会」はそれを象徴するイベントですよねえ。なにしろここでは政治でさえ高校野球の勝ち負けで決まってしまうというのですから徹底してますねえ。いいなあ、こういうの。下手な風刺より効いてます。

 

僕の理解では、少年マンガというのは「インフレーション」が本質です。つまり、テーマは常に「違い」、なのでその「違い」をどんどんエスカレートしてゆくことで物語を駆動して行くのです。

 

俺とお前は違うんだ!

 

違いすぎることが極限まで来ると、違いを担保しているカテゴリーを越境してしまうので、カテゴリー的には「違いがない」っていう結末になりがちというのが、少年マンガの危ういところですね。野球への姿勢は正反対だけど女の子の好みは一緒、みたいな感じでストーリーが完全に袋小路になってしまうわけです。おいおい、いつの間にラブコメになったんだよお、とか(笑)。

 

少女マンガは逆です。違い故にあった緊張感が物語が進むにつれて、段々とやっぱり同じところがある、分かるところがあるねって、違いを解消させてしまって、全員仲よくなってしまう、という。。。「同心円構造」に帰着して物語が停滞してしまうという。

 

で、このマンガ、少年マンガなのにどこかしら少女マンガっぽいところがあるなあ、と思いました。途中「美内すずえ白眼」が出てきたので、もしかしたらと思いましたら、作者さん女性?

 

このマンガの良いところは、女性が参謀であるところですね。お飾りの「かわい子ちゃん最低5人出しておけ」ではなく、はっきりとした目的、意思と戦略を持って立っているのが痛快です。今のところ女性たちより頭の良い男は出てきていない(笑)。雪村マネジャが格下マネジャを大局観がないみたいに切り捨てるところなんか、しびれましたねえ。

 

男たちは野球バカばかり(笑)。でも、いいですねえ、キャラ立ってます。僕はアフロが気に入りました。語りますよね、彼。その語り口が必殺シリーズっぽいので。

 

数々の少年マンガへのオマージュも練り込んで、この先どこへ行くのでしょう。必殺技がインフレを止められず、自重で瓦解していった過去の名作たちをどうやって越えて行くのかなあ。是非、素晴らしい方法論でやって欲しいです。