今年の本屋大賞受賞作品。今までいわゆる賞ものにはあまり感心がありませんでした。評価されるものはやはり何かを持っているはず、と心を改めて色々読み始めました。
今まで小説、まんがで納得できる音楽ものに出会えていませんでした。この作品で初めて心打たれました。
ピアノの調律師の話です。なるほど、「周辺から」描くことでかえって浮き上がってくるんですね。膝を打ちました。
プレーヤー側から書かれたものは、聴く側をおいけて堀にしてしまいます。いくら素晴らしくても「それってどう素晴らしいの?」って思ってしまうのですね。
聴いてみてどうなのよ
調律師に関してはNHK-BSにて、かのショパンコンクールでのピアノメーカーたちの裏側の苦闘を描いた番組を観て、うならされた記憶も新しくて、状況がつかみやすかったことも手伝って、作品世界にすんなりと入ることができました。
調律師さんは、演奏家でもない、聴衆でもない、そう、そのどちらも俯瞰できる位置にいるのですよね、すばらしい着想です。
コンサートでは、毎度お目にかかっている存在なんですけど、本当に裏方って感じですから、意識にのぼりにくいのですね。NHK-BSの番組では「そこまでやるのか」と驚きの連続でしたけど、大なり小なりやっていることは、どこの現場でも同じでしょう。
作品中、才能を開花させたピアニストの卵さん、その音がどんな感じかな、とは思いました。いましたね、僕がイメージする音を奏でたピアニストが。
Dinu Lipatti
もちろん、人それぞれ作品から音を聴いたとは思いますけど、僕にはLipattiのピアノの音色が聴えました。