海辺の風景

海野さだゆきブログ

「勝つために戦え 監督稼業めった斬り」押井守

新聞記事に、といっても事件のではなく、特集みたいな記事にこの本のことがありました。以前に読んだような記憶がなかったので、久しぶりに押井さんの理屈も聞いてみようかしら、と思いました。

 

まな板のうえに色々な映画監督がのせられています。その評価を読んで行けば押井さんの映画観がみえてきます。本の結論は映画監督を職業としてやるならば、撮り続けられる環境を自ら作り出せ、ですね。これは米長先生の「あいつに勝たせたいというひとを増やす」という勝負論と全く同じで、僕は自分の好みってこういうつながり方もしているのか、とちょっと発見したな、と思いました。

 

で、びっくりしたのは、意外なところで同じセリフを見つけたからです。石森章太郎先生の「マンガ家入門」です。

 

ぼくはふしぎにも、まんが賞なるものをもらっていません。そしてさらに、ぼくのかいたマンガにはこれといったヒット作がないのです。どんなマンガもこなせるかわりにキヨウビンボウでとび抜けた作品ができないのです。(「マンガ家入門まえがき」1965年)

 

要するに俳優も監督も同じでさ、圧倒的にノックアウトっていう作品があったりするとね、結局それをつねに持ち出されて、必ず比較される。だから絶えず圧倒的に優勢勝ちという方がいいんだよ。僕だって、じゃあ僕の代表作って何だって言うと、(中略)、みんな言うことが違うでしょう。 (52ページ付近)

 

先生が生涯現役でいらっしゃったことを思うと、僕は先生はマンガ家としては勝ったのだと心から思うのです。ヒット作がない、と自ら認るような作家にどうして「マンガ家入門」というオファーが来たのか、ですよ。どうしてその後物凄い量の、量です、量の作品を残せたのか。経済マンガなどなど、新しいと言われたジャンルの開拓ができたのか。

 

答えは決まっています。それを先生に望んだ関係者がいたからです。

 

そして、これは何百回と言っていますけど、先生は「戦隊もの」 「ライダーもの」で、いまだに現役なんです。一体今まで何人を食べさせてきたのか、と思うと頭がくらくらします。これは先生にマンガを続けさせたスタッフというものへの、先生の恩返しのかたちではないかとファンである僕は思うのです。

 

押井さんがレイアウトのノウハウを詳細に解説した本を出したように、先生は「マンガ家入門」で自作品を使って詳細にマンガを解説しているんですね。面白いです。僕はそういうタイプの「ものを作り、広める人」が好きなんですねえ。。。。そして、ふたつの解説書ともどもちっとも古くならない。古典。うーーーん。すごい。そして、どちらも実作家向けの内容であるという。。。。米長先生も勝負というものの考察を本にしていて、これまた実際に勝負している人たちに読まれてきた。。。。。。

 

仕事は自分で作る。映画は「発明するもの」。マンガも「発明されてきた」。人生もそうだよね、どんなふうに生きても人生だもの。どうやっても自分の人生ならば、好きな事できる人生の方がいいに決まっている。ならば、どうやって好きな事ができる人生にするか、の「知恵」が必要。そういうことですね。

 

その「知恵」には「スタッフ」、つまり周囲のひと、という事が必須なんです。

 

いまは「死ぬ知恵」が必要だけど(笑)。なかなか死ぬ同志っていないなあ。。。みなさん、あと百年は生きるつもりらしくて、僕の話を聞いてくれないんですね。