NHK-FMを良く聴きます。一番色々なジャンルの音楽がかかるからです。日本の民謡の番組もあります。ある日、そこでかかった歌を聴いて僕は全身凍り付くような恐怖を覚えました。
「菅笠節」兵庫の民謡です。歌われているのは西鶴の「好色五人女」第一話、お夏清十郎の悲劇です。この話自体がものすごくdeepなんです。人の気持の機敏がよく描かれていて、筆の冴え、ですね。
最後、濡衣のため、処刑され、もうこの世に愛しい清十郎がいないことを知ったお夏の心は砕け散ってしまいます。
通る人の菅笠をみれば、清十郎に見えるお夏。その狂乱を囃し立てるこどもたち。雨の中、回り中菅笠、その中現実を失ったお夏が「あっちにもこっちにも清十郎が」という光景。
すざましい狂気の光景。
こんな恐ろしい歌が日本の民謡にあったのか、と本当に驚きました。僕的には一番だったキングクリムゾンの「レターズ」を超えています。
そして、この歌、日本民謡としても変った転調をしていると思います。ラジオの範囲ですけど、こういう転調はこの歌だけです。本当に、そこで歌が「骨折」しているんです。それがまた、狂気の描写として際立っているのです。あと、いわゆる「掛け声」がこんなにも劇場性をもっているのも僕は他に知りません。
この歌をプログレッシブロックのイディオムで作れないか。そんなことを考えています。