「欝展開」と言った方がいました。なるほどです。ファンタジーというのは僕には「時代劇」なんです。
若い年代には江戸以前とかはもうなじみがないのだと思います。周囲からそうした「歴史」がすっかり姿を消してしまい、どちらかといえば西洋風なものばかりになり、そうしたものが日常との連続性を担保するファンタジーを身近に感じるのでしょう。
日本映画全盛期にはこういう時代劇もありました。と、いいますか、これ、「花と竜」ですよねえ、僕の世代からすると。
ファンタジーは冒険談ものが多いわけですけど、時間的な制約を逃れられるという利点からすれば、この作品のような心理劇はもってこいではないでしょうか。
「嵐が丘」ではないですけど、自然描写も心理描写と同じ作用がここには与えられていますので、細かい丁寧な表現が使われています。いいですね、静けさや、です。
展開はたしかに甘くはありません。もちろん激辛ということでもありません。「自分に向き合う」という作業をずっとやっている、そんな感じです。それは読みづらいと思うかも知れないですけど、僕にはこの静かな時間の流れは結構気持良かったです。