還暦目前、時間もお金もないのです。人生の後片付けは東海道歩きも例外ではありません。機会があれば残りを歩きますが、ここで一区切りつけようと思いました。
場所は迷わず土山宿から水口宿です。東海道で一番好きな場所なのです。
17日深夜バスで出発。午前4時30分、雨の近鉄四日市に到着。まだ夜に包まれた街をJR四日市まで歩きます。始発電車には時間があります。装備を整理、壊れている膝にしっかりテーピングします。
朝の静かな空気の中、ディーゼルのワンマンカーは鈴鹿に向かって走り出します。汚れでちょっと曇る車窓で東海道を探して辿ります。いつものことですが、何年も前のことなのに、歩いた光景がよみがえります。
鈴鹿の山はけむって、細かい雨。旧道の街並みはまだ眠っています。って、朝食が調達できません。結局駅まで戻ってさらに国道を進んでコンビニでようやく。やれやれ、でも今回はまったく急がない旅です。これもあり、あれもあり、全部楽しみます。
歩けばつい昨日のように全てを思い出します。冷たく風が吹き下ろす峠への道。雪が降るなか歩いた時もありました。
10年くらいでは何も変わらない道。変わるのは人間である僕。水、また水。道は静かです。
峠は晴れていました。燈籠を見上げながらおにぎりを食べます。通りすぎる雲が時折陰を運び時間は緩やかに過ぎます。
もしかしたら、僕は死ぬ直前にこの光る風を思い出すのかもしれません。