海辺の風景

海野さだゆきブログ

『掏摸』中村文則 著

この作品も作者の中村さんがNHK-FMの「松尾堂」に出演されて、その話がとても面白かったので、作品を読んでみたいと思ったのです。これがすざまじく面白く、若い世代の才能に敬服した次第です。

 

主人公はスリです。彼がいかにしてそうなったのか、主観的な振り返りはありますが、実際どうなのでしょう。彼は例の「世界への跳躍」をすることで実存を確認していたのではないでしょうか。

 

さすがにスリの知識はありませんでしたけど、師匠の「のぞき」の本を読んでいたおかげで、どうも同じではないかと、思ったのです。笠井師匠の「鍵穴から世界を覗く」ですね。

 

世界は刹那に「のみ」垣間見ることができる、そういう人間がいるのは確かです。僕もそうでしょう。音楽とか映像芸術とか、一瞬にしてなくなってしまうものを、という態度。同じですね。

 

その掏摸の前に「怪物」が現れ、彼はその怪物に翻弄されます。

 

いやあ、しかし、ほんと、読むのを中断するのがたいへん、という感じです。スリルたっぷり、そして、ぞっとするような怖さを味わいます。しかしまあ、こんな話をよくぞ書いてくれました。

 

翻訳されて海外でも読まれているそうですけど、これは面白いですよ、確かに。

 

若い才能、うれしいですね。『教団X』どうしましょ。怖そうですけど、読みたいですね。