海辺の風景

海野さだゆきブログ

「夕空のクライフイズム」手原和憲 著

高校サッカー部を舞台にした漫画。連載中。ここは5巻まで。

 

僕は1980年代後半「これから日本はサッカーの時代になる」と言っていました。それはもちろん希望を込めてそう言っていた部分もありますが、確信があったのです。

 

テレビというものを大学時代全く見ていなかったのですが、就職してもそれは変らずでした。当時偶然見た高校サッカーがとてつもなく面白かったのです。それは僕の知っているサッカーとはまったく違うものでした。

 

サッカーは攻撃と守備がはっきり役割分担された固定的な競技だというのがそれまでの理解でしたけど、テレビで見たサッカーはまったく違うのです。とにかく動く、動く、とにかく仕掛けまくる、とにかくムチャする。なんじゃ、こりゃあ、でした。

 

僕は当時、いわゆる日本人的暗黒面に相当痛め付けられ、反発していました。高校サッカーはそうしたどうしようもないものとは全く無縁なものを目の前にみせてくれたのです。若い世代にこういうものが生まれているんだ!だったら、日本もそうなって行くのではないか、いや、そうなってほしい。そう思ったのです。

 

その後Jリーグが始まります。年金リーグなどと悪口も叩かれましたけど、彼らは生きた「当時のサッカー」そのものでした。それに触発されたであろう日本人選手は、僕がみた高校サッカーを「持っていました」。面白かったです。

 

ヨハンクライフという名前を知ったのはその頃だったと思います。トータルサッカーが革命を起こした、とは知っていましたけど、どこかどうなのか、「具体的には」よくわかりませんでした。

 

これまた偶然、これは面白そうだな、と電子版を購入したのが「夕空のクライフイズム」でした。僕はやっとクライフの、そしてトータルサッカーが何なのか輪郭をつかめました。作者は相当のサッカーファンですけど、説明がうまいので、本当に助かりました。

 

話は、しかしながら夢物語でも、少年漫画にありがちなインフレーションおこりまくりでもなく、どちらかと言えば、結構シビアです。

 

勝つことを求められ、確率の高いプレイばかり指示する監督に萎縮していた「県内三番手グループ」の高校サッカー部は、その監督に去られてしまいます。代って来たのは中等部監督。そして、その実の娘、中学生!

 

監督はメンバーに、最後に攻撃しまくって最高の負け試合をしよう、と言います。現状勝利は難しい、監督自身も任期は短い、3年生には時間がない、など、まさに現実を踏まえて「負け」を前提としているんですね。メンバーはがっかりしますが、実はこの「負け」には深い意味が込められていました。

 

で、クライフのサッカーの出番です。サッカーおたくの監督の娘さんの説明がわかりやすいです。読んでいて、なーるほど、と感心することしきりでした。

 

どーして今、サッカーの試合でこういう説明を解説者はしてくれないのでしょうか、と思いましたけど、

 

もしかしたら、詳しく解説するほどおもしろくないのかもしれませんね

 

クライフに関して俄然興味が出てきた僕は、『美しく勝利せよ』『ヨハンクライフ スペクタクルがフットボールを変える』を読み、さらに一体どういうことが行われていたのかを知りました。

 

現役時代の映像を見ました。とんでもなく柔軟でバランス感覚のある選手ですね。ありえない体勢からあり得ない体勢へと平気で?変化します。これでは抜かれるのは当たり前ですね。

 

まんがの方は、中学生の娘さんが、野村監督真っ青の適材適所で采配を揮い始めます。これは面白いです。開成高校野球部の本を読んで以来です、これだけ面白いのは。

 

勝つのもよいでしょう。でも、それが目的化すると、ダイナミズムは失われ、見ていても、やっていても面白くないプレイのオンパレードになります。スポーツがダイナミズムを失ってどうするのでしょう。

 

折しも、プロ野球はダイナミズムを体現したチーム同士が日本シリーズに挑みます。面白いですよ、久しぶりに。ラグビーの日本代表も、車いすバスケットボール男子チームも、みんな「美しく勝利」したではないですか。

 

久しぶりによい作品に巡り合いました。