あまりに平坦な日常が物語を要求している、ということで沢山読んでいます。若い作家の皆さんに本当に敬意を表します。
「初恋コンテニュー」1、2巻 なかひろ著 ガガガ文庫
ゲーム世界に入って仕舞うという設定の物語は結構あるけど、この作品は恋愛ゲームというのが味噌。恋愛自体虚構的、いや虚構と現実をまったく別物というひとは、悪いけど、相当鈍感だ。悪いけどね。だって、その虚構で実際一緒に生活して、「血の交換」をして、新しい生命を産み出し育て、年老いて行くのですよ。恋愛が虚構だとしたら、こうした一連の、少なくとも15年とか20年とか続く「現実生活」も虚構だということになる。
現実と虚構を区別するものはそれほど明瞭なわけではない。
そのことを、この作品はかなり先鋭的に表現している。もちろん、ライトノベルなので妹属性だの色々それっぽい要素を搭載していはいるけど、本質はゲームという虚構と現実の境界の危うさだ。
恋愛という、「かもしれない」という事だけが水先案内になる世界で、「現実」とやらをしっかり認識している人が、女性は知らないけど、いるのだろうか?
ゲームを攻略する、という形をとっているが、それは実は僕らが現実をどうやって現実として着地させているか、という方法そのものだ。これには、実にうならされた。
作者は只者ではない!
この作品が2巻で終りなんて、もったいなさ過ぎる。ライトノベルの読者諸君!ライトノベルが「作り物」だからと、安心して読んでいるなんて、もったいないぞ。ここまで現実を揺さぶる作品が、ライトノベルっぽく存在しているというのに!
あたしは西村さんの「妄想ジョナサン」とこれをライトノベルの「これを読め」第一位に挙げる。素晴らしい作品だと思う。文句なしにおすすめである。
ただーーーーし!。現実と虚構に明確な違いを盲目的に認めている人には、まったく何も響かないと思う。
あ、イラストもセクシーで最高です。
「アナザビート」佐原菜月 著 電撃文庫
人に音響器官が備わっている、という設定。うーーん。歌という目に見えない才能を可視化したところはうまい!高校時代コーラス部だった僕にはちょっと受け入れられないところがあるんだけど、音楽に興味がない人にはそういう説明は良いかも知れないね。
話は結構ハードに進む。状況は甘くはない。読んでいてのネックは読者の音楽体験の有無だろうな。楽譜通りに演奏できない、というのは実に分かりにくいことじゃないだろうか。
楽譜って、「読み違い」が出来るものなの?
それが音楽を、それも譜面でやったことがないひとには全然分からないのではないだろうか。矢野あっこちゃんもバイエルの段階から、編曲してじゃない演奏がなかった、というけど、それは楽典のレベルでのはなしであって、ふつーうに音楽興味ない人には違いが分からないのではないだろうか?楽譜通りにできないって、音痴?というふうにしかとれないだろう。
あとがきをみたら、作者はブラバンをやっていたという。ああ、道理で。譜面通りにできない、というのはそういう演奏を訓練した人間にしか通じない。アナリーセなんて普通の人には分からないよ。
話は結構ハードに進むし、読みごたえたっぷり、読後感はよい、お勧めします。
「つばさ」全3巻 麻生俊平 MFJ文庫
7年以上前の作品。今の作品を全部読んだわけではないので、ただの印象だけど、このころのレベルが丁度良い感じではないかと思う。いまはちょっと刺激が強い感じかな。その分、年齢が上がっても楽しめるけど、たぶん、本来ライトノベルは学校生活でたまったストレスをちょっと解消してくれる、そんな読み物だったと思う。
ということは、いまはよりストレスが高くなってしまっているのかもしれない。まあ、大人、おじさんたちはそういうことにまるで感心がないけど、どうなんだろう。
話は学園アクションもの、ってことなのかな。生徒のトラブルを解決する組織がある、っていうところで、すわ仕置人か、と思うのは僕の性。そういう過激さはなく、依頼人本人の解決への努力が不可欠、組織はあくまで「補助」というスタンス。いいね、そういうの。
他者への介入ってそういうものだよね。なんでも「異能」で解決というのは好きじゃない。ただまあ、補助といっても、相当高いレベル。ここがジレンマという時代だったのかもしれない。どこまでの問題設定にするのか、ということはつまり、学校内で終わらせるのかどうなのか、ということだろう。学校同士でもそれは変わらない。学校は学校というルールの世界だが、外の問題に手を出せば、外のルールで動くしかない。
簡単に言えば、放課後とか夏休み限定の問題かどうか。第3巻はそのレベルを超えてしまう。もう本当にプロフェッショナルな技術が必要な課題になってきている。
しかし、この話の白眉はそこではない。お嬢様、翠子が言った、憧れの組織に「加入」することではなく、「自分で組織」すればよかったのだ、というところではないだろうか。
そう、主人公たちが苦境から導き出す言葉、それを若い読者に聞せたい、それがライトノベルの古き良き姿だったと、思う。
「メイド喫茶 ひろしま」八田モンキー著ぽにきゃんBOOKS
設定だけのずぶずぶな色物、と思ってしまってました、ごめんなさい。
ダークな雰囲気をまとったハードボイルドです。読みごたえありますよ。しっかり店の経営のことも結構リアルに記述してありますし。僕にはVシネマ的な面白さがミソの作品だと思えました。広島云々はコネタとして楽しめばよいのではないかと思います。
え?これだけ?、だってアクションシーンたっぷりですから、そこを楽しめるかどうかですから、そこって論じることは僕には無理なので。
「覚醒遺伝子」全3巻 中村一著 電撃文庫
今回まとめ買いした中で一番期待していたのです。天使といえば、あなた、押井さんの得意技ですから。
かつて存在した翼をもつ特異な能力を有した人の種族は、現在の人類に駆逐される過程で、未来の復活を遺伝子にプログラミングしていた。その発現により、世界は混乱。
3巻は世代を進めて話が進んで行く構成。少年だったものは青年に、青年だったものは成人に。それぞれ立場を変えながらも貫き通すものがある。そこが読んでいてぐっと来る。
読みごたえもあるし、読後感もよい、お勧めです。
「南蛮服と火縄銃」静川龍宗著 スマッシュ文庫
あ、「うちのメイドは不定形」のひとナノね。歴史物だし、室町から戦国という流れの時代だし、と期待たっぷりでした。僕としては新品を買うのはそういう事なんだけど。
ちょっと、設定が未消化で終わってしまった。残念。これだとわざわざ日本のあの時代にする必然がまったくないどころか、かえって邪魔なのではないでしょうか。
うーん。
「暗号少女が解読できない」新保静波著 スーパーダッシュ文庫
ライトノベルは「んな娘いねーよ」の宝庫。この子はその中でも横綱と呼んでよいのではないだろうか。その彼女の変人ぶりを楽しむのがこの小説の正しい読み方、ですよね。
そもそも暗号って、伝える方と伝えられる方であらかじめコードを共有している、というか、そもそも「伝え伝えられる関係が成立している」ってのが大前提ではないのではないかと。
話の中でいろんなものが出てくるけど、「だったらわざわざややこしくしないで伝えないとまじで伝わらないのでは?」と思ったのは僕だけではないでしょう。
でも、まあ、最後には分かるんです、そもそもの部分が成り立っていた、というのを。あ、そうなの。。。。。。。。。
地元にいた女の子にその後再会なんてできないまま、ウン十年たっているんですけど。。。。。そこがライトノベルなんです。
「この広い世界にふたりぼっち」葉村哲著MFJ文庫
乾いた筆致でひたすら、結構残酷なバトルシーンが描かれる。異能バトルものってことですよね。とにかく出てくる人物、風景が殺風景。こういうの、嫌ではないし、むしろ好きな方なのだけど、時には血が通う暖かみがないとついてゆけない。甘いかな。
あ、これ続くんだね、でもちょっとこの先を読む気がしなかった。残念。里見八犬伝かと思ったので。
「ベネズエラビターマイスウィート」森田季節著 MFJ文庫
「いけにえびと」と「たましいびと」の織り成す不可思議な物語。人は「記憶」で存在しているので、その人間を殺すというのはその「記憶」を「食べる」という事なのかも知れない。
うーん。他人というのは久しぶりに会うと、死んでいた存在が何故か外見上の「経年変化」をしていて、もとの「記憶を失って」現れるって感じなのかも知れない。
「のうりん第9巻」白鳥士郎著 GA文庫
文句なしに楽しめ、そして最後に考えさせられるというか、ぐっと来ます。ライトノベルの醍醐味を持っているこのシリーズは9巻でもばりばりです、はい。
今回の圧巻はもちつき、じゃないて、あははは、この物販の売り上げを伸そうとありとあらゆる「資源」を駆使して奮闘する場面だと思う。農産物は商品として存在している以上、これはもう農業の営みの肝だと思うから。彼らの知恵の豊かさには本当に感心する。
そして、これはこのシリーズを読んだ誰もが同じ感想をもつのだけど、あの、あのですよ、あのベッキーに感動してしまうのに自分でびっくりしてしまいます。
文句なしのお勧め!これを読まずして日本の未来を語るなかれ。
「ガンパレードマーチ2K未来へ」第2巻 榊涼介著 電撃ゲーム文庫
戦争は戦闘が止んでも続く。むしろ戦闘が終わってからが本当の戦争なのかもしれない。日本だってそうだったのだ。戦争を総括せず、戦争指導者を裁くことをしなかった僕ら日本人はいまだに「戦争中」なのだ。
遺体回収作業は続いて行く。そのなかで、僕も気になっていたのだけど、遊兵化した学兵の存在だ。どんな戦場でも完全な全滅というのはない。生き残る兵がいるのである。その兵がどうやって生き残るのか。。。
『ひとはどのようにして生きのびるのか』彦坂諦著 柘植書房
僕の座右の書。ここで語り手である赤松さんが「玉砕命令」のなか、どう生きのびたのかが彦坂さんの筆によって描かれている。が、聞取をした彦坂さんもそれを描ききれていない、と言う。
いよいよ、その遊兵の話になるみたいだ。榊さんにはぜひその筆で描ききってほしい。21世紀の日本でこれが書かれていることには意味がある。
「魔法少女禁止法」第1巻 伊藤ヒロ著
これは電子書籍で購入しました。「アンチマジカル」も読んでいたので、楽しみにしていました。よりシビアに、残酷になりました。うーん。
ここまで魔法少女をつきつめなくても。。。いいのじゃないですか。。。。
これ、新仕置人の最終回ですよ。
と、クリィミィマミのファンである僕は思うわけです。あ、ファンシーララも大好きです。あ、キャラが好きなわけじゃなくて、作品としてね。カタルと長いよ、って、きっと作者の伊藤ヒロさんも、ファンだったのでしょうね、カタルと長い。
そのカタルと長い部分を小説に着地させた作品ですね。だから、ここまで設定に関してつっこまなくても、ってご自身も書きながら思っているはずです。ちがうかな。。。。
続き、楽しみに待ってます。
「キルリアンブルー」矢崎存美著 TO文庫
ライトノベルで出会った作者だったので、その方向かと思ったら、これは本格的なホラーだった。いやあ、怖いです。
上田秋成先生ファンであります僕です。高田衛先生の授業が大学時代一番好きで、一番力を入れて、一番よい成績をとりました。専攻じゃなかったのですけど、というか、僕は専攻以外の成績が良かった、というへんてこな大学生でした。
怪異談は因果律の誤解、もしくは不適切な適用、から生まれます。現代に於ては、あまりに明確な因果律を忌避する精神の発露だと思います。
あまりに正確に繰り出される情報、あまりに正確に運行される交通機関、あまりに正確に記憶するメディア、などなど、どうも人はそうしたあまりに正確なものに耐えられないのか、不愉快に思うのか、とにかく「否」という姿勢をみせるのですね。どうしてでしょ。
僕はそれは脳以外の身体が、脳の機能不全をあえて望んだ結果ではないかと思っています。脳はどうもリソースを馬鹿食いする器官みたいですね、人の全体からすると。色々な判断をするのは脳だけではないのに、そこにリソース持って行かれると、困る、ってことですね。
例えば、筋肉。過剰な収縮が続くことにたいして信号を送り、修復を図るのですけど、割り込めない。修復が進められないので「代償手段」を駆使する。それは不自然な処理なので新たな問題を生む。その問題にたいしても割り込めない。そのまた代償手段を駆使する。だんだん、もともとの問題がなんなのか分からないほど複雑化する。肩、腰、膝あたりの痛みはそういう感じで解決が難しいものになってしまっているみたいです。
この小説みたいなことが可能だとすれば、それは脳以外も実は「記憶している」ということでしょう。ま、実は皮膚ってあんまり研究されていないみたいですよ、筋肉同様。ま、どうもタダノ「皮」じゃないみたいですよ、包装紙みたいに思っている人もいるみたいですけど。
もしかしたら、僕らって、触って伝え合うことが最初の「言語」なのかもしれないですね。その後、学習して、触らなくても、触った時のような「結果」を脳で生じさせる方法を取得したのかも知れないですね。まさに因果律の誤解、もしくは誤った適用。